前回の記事で、SEOツールのキーワードデータには構造上カバーしきれない領域があること、そしてその領域がAIO時代に決定的な意味を持つようになったことを書きました。
一つ前の記事:検索意図分析、ツールだけで足りていますか?|AIO時代にSEO事業者が見落としている構造的な死角
では、ツールに出てこない口語的な検索意図を、具体的にどうやって見つけるのか。
この記事では、実際の商材を2つ取り上げて実演します。
やり方はこうです。まず、ツールベースで考えた場合の「一般的な設計」を示します。その後、実態とのズレがどこにあるかを見ていきます。この「ズレ」こそが、ツールだけでは拾えない部分であり、AIO時代にコンテンツの差を生む部分です。
この手法の原型について
この記事で実演する手法は、2021年に私がnoteとして公開したキーワード選定・検索意図分析の方法が原型です。
当時のターゲットはブロガーでした。個人でブログを運営し、アフィリエイトで収益を上げたい方に向けて、「商品名を知らない人がどんな言葉で悩みを検索するかを想像し、それを実際にGoogleの検索窓に打ち込んでサジェストから拾う」というプロセスを書きました。
2021年の時点では、AIOという言葉は存在していませんでした。
ですが今、AI検索時代に必要とされているスキルとして注目されているのは、まさにこの手法の延長線上にあるものです。ユーザーがAIに口語で質問する時代に、その口語的な悩みに応えるコンテンツをどう設計するか。そのためには、ユーザーが実際に使う言葉を、ツールの外側から拾う力が必要になる。
2019年からやってきたことに、名前がついた。私はそう感じています。
この記事では、同じ手法を法人のクライアント案件の文脈で再構成し、2つの商材で実演します。
【実演①】おくるみ|BtoCの生活系商材で口語的キーワードを拾う
1つ目の商材は「おくるみ」です。赤ちゃんを包むための布製品で、出産祝いとしても定番のアイテムです。
ツールベースで考えるとこうなる
Ahrefsやラッコキーワードに「おくるみ」と入力すると、おそらくこのようなキーワードが出てきます。
・おくるみ おすすめ
・おくるみ いつまで
・おくるみ 巻き方
・おくるみ 夏用
ここから多くのSEO担当者が組み立てる設計は、こうでしょう。
「ターゲットは出産準備中のプレママ。出産準備リストの記事を作って、そこからおくるみのおすすめ記事に内部リンクで流す」
一般的な設計としては間違っていません。ただ、ここにはいくつかのズレがあります。
実態とのズレ|「誰が買うか」の解像度
おくるみを買うのは、プレママだけではありません。
出産祝いとしてママ友が買うケースはかなり多い。おくるみはギフトとして選びやすい価格帯です。また、実家や義実家のじいじ・ばあばが「孫に何か買ってあげたい」と思って検索するケースもあります。
つまり、検索する人と使う人が一致しないことが多い商材です。
ツールに「おくるみ」と入力した時点で出てくるキーワードは、「使う側(プレママ)」の視点に偏りがちです。しかし実際の購買行動では、ギフト需要が大きな割合を占めている。「出産祝い 実用的」「ママ友 出産祝い 3000円」のようなクエリからおくるみにたどり着く導線は、ツールの中では見えにくい。
また、「プレママ」という呼び方自体も一面的です。「マタママ(マタニティママ)」という言い方も使われています。ツールではどちらか片方しか拾えないことが多いですが、実際にはどちらの言葉でも検索されています。
実態とのズレ|「何と呼ぶか」の問題
ここが最も重要なポイントです。
「おくるみ」という商品名を知っている人は、当然「おくるみ」で検索します。だが、同じ機能を持つものを探しているのに、別の言葉で検索する人がたくさんいます。
・おくるみ → 商品名を知っている人
・スワドル → 英語由来の名称を知っている人
・ブランケット → 代用品として考えている人
・夜泣きの時に包むやつ → 商品名を知らず、悩みそのものを検索窓に入れる人
ツールに「おくるみ」と入力した時点で、スワドルやブランケットで検索する層は取りこぼしています。そして「夜泣きの時に包むやつ」のような口語的なフレーズは、ツールにはほぼ出てきません。
さらに、おくるみは無ければブランケットで代用できそうだと思っている層もいます。この人たちは「おくるみ」で検索しない。「赤ちゃん ブランケット 代用」「赤ちゃん 寝る時 何で包む」のような、もっと手前の悩みから入ってくる。
実態とのズレ|「どこから流すか」の距離感
先ほどの「一般的な設計」では、「出産準備リストの記事からおくるみ記事に流す」としました。
この導線は機能しないわけではありません。ただ、距離が遠い。出産準備リストを読んでいる人は、まだ「何を揃えればいいか」を全体的に把握しようとしている段階です。そこからおくるみの記事にたどり着いても、「ふーん、おくるみもいるのか」で終わる可能性が高い。
初産の妊婦さんが出産準備品を実際に揃えようとしても、出産をしたことがないために本当にこんなに買い揃えるのだろうか?と案外実際はギリギリまで買わない心理も多く、おくるみの優先順位は%的にも下がります。
一方で、「夜泣きの時に包むやつ」で検索している人は、今まさに困っています。この人の目の前におくるみの記事を差し出したら、切迫感があるぶん、購入やサービスページへのアクションに繋がりやすい。
導線設計では、この「収益ページとの距離感」を考える必要があります。距離が遠くなるほど、途中で離脱する確率が上がります。
【実演②】勤怠管理ソフト|BtoB寄りの業務系サービスで口語的キーワードを拾う
2つ目の商材はガラッと変わります。「勤怠管理ソフト」。企業が従業員の出退勤を管理するためのシステムです。
ツールベースで考えるとこうなる
ツールに「勤怠管理」と入力すると、こんなキーワードが並びます。
・勤怠管理 比較
・勤怠管理 無料
・勤怠管理 アプリ
・勤怠管理 エクセル
ここから組み立てる設計は、おそらくこうなるでしょう。
「中小企業の総務担当者が、エクセルでの勤怠管理に限界を感じて代替を探している。”エクセルでの勤怠管理に限界を感じたら”という記事を作り、そこからサービス比較ページに流す」
一般的な設計としては合理的に見えます。ただ、ここにもズレがあります。
実態とのズレ|「誰が選ぶか」のユーザー像
勤怠管理ソフトは、いろんな業種で使われています。整備工場の事務、調剤薬局チェーンの全店舗管理、製造業のシフト管理。業種が違えば求める機能も導入の規模感もまったく異なります。
ツールのキーワードからは「勤怠管理ソフトを探している人」としか見えませんが、実際には「100人規模の会社で使えるか」「多店舗を一括管理できるか」「パソコンに詳しくない従業員でも使えるか」といった、具体的な業務条件から検索が分岐していきます。
そしてもう一つ重要なのは、ユーザー像を高めるべきは「使う人」ではなく「選ぶ人」だということです。勤怠管理ソフトを実際に操作する従業員と、導入を検討して比較検索する人は違います。検索しているのは経理や事務の担当者であることが多い。
さらに、新規で導入する場合と乗り換えの場合でも、検索者のポジションが変わります。新規導入は新しく事業を立ち上げる会社の担当者、乗り換えは上の立場の人に権限が移ることもあります。
実態とのズレ|「検索行動の流れ」が違う
おくるみとの最大の違いは、検索行動の入り口です。
勤怠管理ソフトの場合、多くの人はいきなり「勤怠管理 比較」と検索するわけではありません。まず、CMで見かけたり、取引先からパンフレットをもらったりして、特定の商品名を知る。そこから商品名で指名検索をします。
ところが、指名検索で出てくるのは公式HPがほとんどです。公式HPだけでは比較ができないし、自社の条件に合うかどうかもわからない。
そこで次に出てくるのが、条件付きの口語的な検索です。
・「エクセルじゃない勤怠管理ソフト100人規模」
・「多店舗も一括管理 勤怠管理ソフト」
・「個人のダッシュボード見やすい 勤怠管理ソフト」
・「パソコンにうとい社員でもつかいやすい勤怠管理ソフト」
・「勤怠管理ソフト オンライン 安全か?」
今即興でザッと出しましたが、これらのクエリは、ツールには出てきません。しかし実際にきっと検索されていると思います。そして、これらのクエリで検索している人は、導入を具体的に検討している段階にいます。つまり、コンバージョンに最も近い位置にいるユーザーです。
2つの実演から見えること
おくるみと勤怠管理ソフト。まったく異なる商材で、同じプロセスを実演しました。
気づいてもらえたと思いますが、同じ手法で、同じ人が拾っているのに、出てくる言葉の質感がまったく違います。
おくるみでは、生活の中の感情がそのまま検索窓に入る。「夜泣きの時に包むやつ」という言葉には、深夜の疲労と不安がにじんでいます。
勤怠管理ソフトでは、業務上の不安や社内事情が言葉になっている。「パソコンにうとい社員でもつかいやすい」という検索には、導入後に社内で起きそうなトラブルを事前に回避したいという実務的な心配が入っています。
どちらも、ツールに商材名を入力してキーワードリストを出力するだけでは、この分岐は見えません。
そしてこの実演、それぞれ約10分で行っています。
ツールでキーワードリストを出すのにも同じくらいの時間がかかります。しかし同じ10分で出てくるものの質が違う。ツールからは「おくるみ おすすめ」「勤怠管理 比較」。手動で検索者の状況を想像してから検索画面を見ると、「夜泣きの時に包むやつ」「パソコンにうとい社員でもつかいやすい勤怠管理ソフト」が出てくる。
この差は何かというと、「商材ごとに変わる検索者の状況を読み取る力」です。おくるみを探す人と勤怠管理ソフトを探す人では、悩みの質も、使う語彙も、情報収集の流れも違う。その違いを想像してから検索画面に向き合うことで、ツールでは見えないキーワードが見えてくる。
この力は、フレームワークを知っているだけでは身につきません。型を教えることはできます。実際、この記事で型は全部見せています。だが、型通りにやっても商材が変わった途端に精度が落ちるのは、「検索者の状況を読む目」が手法とは別のレイヤーにあるからです。
ご自身の担当案件で、同じプロセスを試してみてください。同じ精度で出せるかどうか、実際にやってみるとわかります。
次の記事では、見つけたキーワードをどうコンテンツに落とすかを書きます
この記事では、口語的な検索意図の見つけ方を2つの商材で実演しました。
次の記事では、こうして見つけたキーワードを「どうコンテンツ設計に落とすか」を書きます。網羅性ではなく「的確に応える」記事の作り方。内部リンクを「機械的に」ではなく「気持ちが動くところに」置く導線設計。そしてその設計がなぜAIO時代のコンテンツ引用につながるのか。
次に読む記事→口語的キーワードからどうコンテンツを設計するか|AIO時代の導線設計と的確に応える記事の作り方
この記事を書いた人
田口靖恵(あみりえ)——検索意図分析の専門家。口語的な検索クエリからのコンテンツ設計を2019年から実践。INGTACT代表。

